1.はじめに:数値を測るだけが検査じゃない
製造現場では、製品の寸法が「図面の公差内にあるか?」を素早く、かつ正確に判断する必要があります。 マイクロメータやノギスで数値を一つ一つ測るのも重要ですが、量産品すべてをその方法で検査するのは時間も手間もかかります。
そこで活躍するのが**「限界ゲージ」**です。これは数値を読むのではなく、「入るか・入らないか」だけで合否を判断する、シンプルかつ強力な検査ツールです。
2.限界ゲージとは?
限界ゲージは、製品の寸法が図面の「最大許容寸法(Go側)」と「最小許容寸法(No Go側)」の間に収まっているかを瞬時に確認するためのゲージです。 主に「穴(内径)」や「軸(外径)」、「ねじ」などの形状に対して使われます。

3.限界ゲージの種類と使い方
3-1. 栓ゲージ(内径用)
穴の直径が公差内にあるかを検査します。
- 構造: 一つのゲージの両端に「通り側(Go)」と「止まり側(No Go)」の測定部が付いています。
- 使い方:
- **通り側(Go)**の測定部を穴に差し込む → スッと入ればOK。入らなければ穴が小さすぎるためNG。
- **止まり側(No Go)**の測定部を穴に差し込む → 絶対に入ってはいけない。少しでも入ってしまったら穴が大きすぎるためNG。
3-2. リングゲージ(外径用)
軸(シャフト)の外径が公差内にあるかを検査します。
- 構造: ドーナツ状のゲージで、穴の内径が「通り側(Go)」と「止まり側(No Go)」に分かれています。
- 使い方:
- **通り側(Go)**の穴に軸を差し込む → スッと入ればOK。入らなければ軸が大きすぎるためNG。
- **止まり側(No Go)**の穴に軸を差し込む → 絶対に入ってはいけない。少しでも入ってしまったら軸が小さすぎるためNG。
3-3. ねじゲージ(ねじ用)
ねじの有効径やピッチ径が公差内にあるかを検査します。
- 構造: ねじ山が切られたゲージで、やはり「通り側(Go)」と「止まり側(No Go)」があります。
- 使い方:
- **通り側(Go)**をねじ込む → スムーズに入ればOK。ねじ込めなければねじ山が小さいか、ピッチがズレているためNG。
- **止まり側(No Go)**をねじ込む → 2回転以上ねじ込めたらNG。ねじ山が大きすぎるか、ピッチが大きいためNG。
4.ピンゲージとの違いと、「代用」の可能性
「穴の合否判定ならピンゲージでもできるのでは?」と思った方もいるかもしれません。
- ピンゲージ:
- 特徴: 高精度な単一の径の棒。
- 主な用途: 穴径の精密測定(マイクロメータで数値を読み取る)、マイクロメータの点検用マスター、ピッチ測定など。
- 一本で複数の公差の確認はできない(例:φ5.00とφ5.02のピンが別々に必要)。
- 栓ゲージ:
- 特徴: 「通り側」と「止まり側」が一体になった専用のゲージ。
- 主な用途: 量産品の穴径の合否判定のみ。
- 一度に公差の上下限をチェックできるため、検査効率が格段に高い。
【ここで裏技】ピンゲージを「栓ゲージ」として使う! 厳密には違いますが、現場の「ちょっとした検査」や「コストを抑えたい時」には、ピンゲージを栓ゲージのように使うことも可能です。
例えば、「穴径 φ5.00~φ5.02」の公差であれば、
- φ5.00のピンゲージを「通り側」として
- φ5.02のピンゲージを「止まり側」として
使用することができます。もちろん、専用の栓ゲージの方が効率は良いですが、ピンゲージがあれば急場をしのぐことができます。 ピンゲージはマイクロメータの精度点検にも使えますので、ぜひ以下の記事も参考にしてみてくださいね。
5.【プロの知識】ねじゲージの「GP・IP・WP」って何?
ねじゲージのハンドルを見ると、**「GPⅡ」や「IP」「WP」といった謎のアルファベットが刻印されていることがあります。これは「旧JIS規格」**の記号ですが、現場では今でも現役バリバリで使われています。
品質管理部として、これを知らないと**「現場では合格だったのに、検査で不合格になった!」**というトラブルの原因になりますので、ぜひ覚えておきましょう。
5-1. 記号の意味と役割
| 記号 | 読み方 | 意味 | 誰が使う? |
| GP | ゲージプラグ | 通り側 (Go) | 全員 |
| WP | ダブルピー | 工作用止り (Working Plug) | 製造現場 |
| IP | アイピー | 検査用止り (Inspection Plug) | 品質管理 (QA) |
| GP Ⅱ | ジーピーツー | 2級精度の通り側 | – |
5-2. なぜ「止り側」が2種類(WPとIP)あるの?
※「Ⅱ」はねじの等級(2級)を表します。一般的に使われるねじはほとんどが2級です。
ここが一番のポイントです。
「WP(工作用)」は、「IP(検査用)」よりもごくわずかに厳しく(入りにくく)作られています。
- 製造現場(WPを使用): 厳しいゲージでチェックするので、少し余裕を持って合格品を作ることになります。
- 品質管理(IPを使用): 現場より少し甘いゲージで最終検査をします。
つまり、**「現場のWPを通れば、品管のIPは絶対に合格する」**という安全マージンを取るための仕組み(二重管理)なのです。
5-3. 注意:栓ゲージ(穴用)にはこの区別がない
「じゃあ、H7などの穴用栓ゲージにもWPとかあるの?」と聞かれることがありますが、今の栓ゲージには基本的にこの区別はありません。
- ねじゲージ: 作るのが難しいため、WPとIPで二重管理する(ことが多い)。
- 栓ゲージ: 「現場も検査も同じゲージを使おう」というのが現在の基本ルール。
ですので、栓ゲージの場合はシンプルに「H7」と書いてあるものを使えばOKです。
6.限界ゲージを正しく使うための鉄則
- 無理な挿入・ねじ込みは厳禁 ゲージが入らないからと無理に押し込んだり、ねじ込んだりすると、ワークを傷つけるだけでなく、ゲージ自体を摩耗させてしまいます。特に止まり側は「入ってはいけない」ので、力を入れないのが鉄則です。
- 素手での接触を避ける 体温によるゲージの膨張、指紋による錆を防ぐため、可能な限り手袋や指サック、専用ホルダーを使用しましょう。
- 定期的な校正と摩耗チェック 限界ゲージは使えば使うほど摩耗します。特に検査頻度が高いものは、定期的に校正に出すか、マスターゲージで摩耗していないか確認が必要です。摩耗したゲージは不良品を見逃す原因になります。
- 正しい保管 専用ケースに入れ、防錆油を塗布し、温度・湿度変化の少ない場所に保管しましょう。
7.まとめ
限界ゲージは、「OKかNGか」を明確に判断するための、量産現場における強力な検査ツールです。 正しい使い方をマスターすれば、検査のスピードと信頼性が飛躍的に向上します。また、ピンゲージとの使い分けや代用方法を知ることで、より柔軟な品質管理が可能になるでしょう。



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